Dora Bartilottiさんの「Public Voice」は、ラテンアメリカ社会のなかで抑圧されてきた女性や性的マイノリティーたちによる作品です。彼女/彼たちは、自ら電子工作を施した鮮やかな「しゃべる服」で仮装して町を歩きます。しゃべる服という「声」を獲得したことで、彼女/彼たちは、匿名性を担保したまま、自らの存在を社会にアピールすることができます。
一方、masharu studioさんの「the Museum of Edible Earth」が光を当てるのは、いつでもどこでも私たちの足元にある「土」です。世界各地に伝わる「土を食べる」(土食)文化を調査し、アーカイブしたこの移動式の博物館は、地球を体内に取り込むという直接的かつ衝撃的な経験を通じて、無機物や有機物といった人間以外の存在との関係を結び直すヒントを与えてくれます。
「Public Voice」は人間レベルの視点に立ち、「the Museum of Edible Earth」は非人間レベルの視点に立っています。そして、これからの民主主義をつくるためには、これら二つの視点を同時にもつことが必要不可欠なのではないか、というのが審査員全員で出した結論でした。人間同士の関係をよりよくするためには、人間と非人間の関係をよりよくしなければダメなのです。
YouFab2021 総評
伊藤 亜紗
東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授
今年のYouFab Grand Prizeは、異例の2作品同時受賞となりました。受賞されたDora Bartilottiさん、masharu studioさん、おめでとうございます!
2作品同時受賞という形になったのは、この2つの作品がともに優れているからではありますが、決して「ひとつに決めかねたから」ではありません。今年のテーマであるDemocratic experiment(s)にとって、この2つの作品が体現している視点がともに必要不可欠である、ということに審査会を通じて気づいたからです。
Dora Bartilottiさんの「Public Voice」は、ラテンアメリカ社会のなかで抑圧されてきた女性や性的マイノリティーたちによる作品です。彼女/彼たちは、自ら電子工作を施した鮮やかな「しゃべる服」で仮装して町を歩きます。しゃべる服という「声」を獲得したことで、彼女/彼たちは、匿名性を担保したまま、自らの存在を社会にアピールすることができます。
一方、masharu studioさんの「the Museum of Edible Earth」が光を当てるのは、いつでもどこでも私たちの足元にある「土」です。世界各地に伝わる「土を食べる」(土食)文化を調査し、アーカイブしたこの移動式の博物館は、地球を体内に取り込むという直接的かつ衝撃的な経験を通じて、無機物や有機物といった人間以外の存在との関係を結び直すヒントを与えてくれます。
「Public Voice」は人間レベルの視点に立ち、「the Museum of Edible Earth」は非人間レベルの視点に立っています。そして、これからの民主主義をつくるためには、これら二つの視点を同時にもつことが必要不可欠なのではないか、というのが審査員全員で出した結論でした。人間同士の関係をよりよくするためには、人間と非人間の関係をよりよくしなければダメなのです。
「つくること」は、いまおそらく逆風にさらされています。大量生産大量消費がもたらした環境への影響は深刻であり、製造業にまつわる搾取的な労働の問題も切実です。つくることは悪である。そんなふうに言われる時代が早々に来るかもしれません。
だからこそ、今回のYou Fabアワードでは「つくること」の原点に帰りたいと思いました。本来、ものをつくるということは、人間社会の内部と外部の境界に位置する営みです。それを「製品」と呼べば人間的な経済活動の取引の対象になりますが、その素材は、もともとは誰のものでもなかったはずの自然に由来しています。
26の国と地域から集まった335の作品を審査するなかで見えてきたのは、この境界線上にある営みとしての「つくること」の可能性でした。人間社会という「中」の問題を、いかに「外」とともに考えるか。そのためには、私たちの便利な生活が何に依存してきたのかを自覚し、外へと排除してきたものたちの声を聞くことが必要です。それはまぎれもなく民主主義について考えることでしょう。選挙で投票することだけが民主主義ではありません。つくることを通じて外と出会い、中を変えていくこと。私たちは民主主義の実験を続けていかなければなりません。
さいごに、審査のプロセスをともにしてくれた審査員の仲間たち、公募から応募作の取りまとめ、審査の準備をととのえてくれたスタッフの方々、そして何より賞に応募してくださったみなさんに、心より感謝もうしあげます。