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YouFab2016 グランプリ OTON GLASS (島影圭佑) インタビュー

Mar.16, 2017

By YouFab2016実行委員会

野性的なものづくりの共同体としてのFabが生み出す未来

YouFab Global Creative Awards 2016でグランプリを受賞した、視界に入った文字を読み上げてくれるOTON GLASS(ヤマハ賞とのダブル受賞)。OTON GLASSが生まれたきっかけは、失読症になった家族をサポートするツールを作りたいというチーム代表の島影圭佑さんの想いでした。しかし、OTON GLASSには、一つの問題の解決に留まらず、新しいプロダクトを生み出すポテンシャルが隠されているようです。代表の島影さんとYouFabのチェアマン福田敏也さんが、OTON GLASSが持つ可能性とFabの存在意義について、語り合いました。

始まりは、自分自身の父が抱えていた問題。一人のための解決方法が「人間の認知」をサポートする可能性に

OTON GLASS代表の島影さん。2016年はYouFab以外にもいくつかのアワードを受賞した

福田: OTON GLASSは、島影さんのお父さん(おとん)が失読症になってしまったことをきっかけに作ったのですよね。今はもう完全に治っているとのことですが、どうやって再び読めるようになったんですか?

島影:父の失読症の原因は、脳の言語野に傷がついてしまったことでした。それにより記号としての文字と自分の頭の中の辞書との結びつきができなくなってしまったのです。その後、言語聴覚士の先生と一緒に3~4年くらいリハビリテーションをしてほとんどの文字を読めるようになりました。幸いにも父にとってOTON GLASSは必要なくなったのですが、開発を進めていくうちに、先天的に文字を読むことが苦手なディスレクシアという発達障がいを持った方と出会いました。現在はその方たちに向けて開発を進めています。ディスレクシアについて調べて分かったことは、人間は文字を読む時に、視覚的な文字情報を脳内で音声化して意味を理解しているということです。ディスレクシアの方は、その文字を音声化する部分に問題が起きて、読み間違えたり、著しく読むのに時間がかかったりしているという説が一般的です。OTON GLASSのアイデアを閃いたのは、父がどんな時に困っているかを知るために、一緒に行動した時でした。病院でアンケートを書く場面で、父は自分が読めない所を隣にいる先生に「ここはなんて書いてあるんですか?」と聞きながら記入していました。その時に、文字の読み上げを代替するデバイスを作ればいいと思ったのです。正確には、後天性の失読症と、先天性のディスレクシアでは、文字を読むことが困難になっている原因が異なるのですが、それを解決する方法は一緒で、視覚的な文字情報を音声に変換することです。それは同様に、眼鏡をかけても視力が上がらない弱視の方や、処理の過程に機械翻訳が介入すれば、海外渡航者の方にとっても価値のあるものになると言えます。

福田: OTON GLASSが「人間の認知」をサポートしていると考えると、多様なレイヤーの将来性を感じます。目の前に書かれている文字をメガネが読み取り音声で読み上げる、意味を翻訳して再生する、という基本機能レイヤーの下には、失読症の言語理解をサポートできるというレイヤーがあり、それは、脳の言語理解メカニズムに作用しているという脳神経学的レイヤーがある。あるレイヤーで考えると、それはメガネというインターフェースに着地することが自然になり、違うレイヤーを出発点に考えるとそれはメガネとは限らない形になってくる。

OTON GLASSが持つこのレイヤーの可能性について対等に話せるエンジェル投資家を見つけられることが今後とても重要になるだろうし、適切なパートナーや提携先と組める構造と握手し合いながら事業的成功を考えられる流れを作れることが大事になると感じます。

島影:そうですね、単に機能の側面からの評価だけではなく、OTON GLASSが持っている人間の認知を代替することによって、「読む能力」それ自体を拡張するという可能性に対して、理解し共感していただける方とパートナーシップを結べると嬉しいです。OTON GLASSで使われている主な基礎技術は、文字認識と機械翻訳と音声合成の3つです。どれも歴史のある技術です。僕らは、それらを統合し、人間の身体に寄り添うハードウェア、人間の認知に寄り添うインターフェースの研究開発を行なうことで、基礎技術を体験に落とし込んでいくということをやっています。体験をつくったその先に、今までの個別の技術の進化を追うだけでは見えなかったものを、発見することができると思っています。それは、福田さんが先程おっしゃった「多様なレイヤー」の話につながるかと思っています。

当日島影さんが持ってきてくれた最新版のOTON GLASS。ユーザーが眼鏡をかけると視点と同一位置にあるカメラが文字を撮影する。撮影されたデータはサーバーに送られて、文字認識技術でテキストデータに変換、音声として読み上げられる。

OTON GLASSは、草の根的に生まれた縄文土器

YouFab アワードチェアマンであり、FabCafe Tokyoの共同創立者でもある福田敏也さん。

福田:ところでYouFabにはなぜエントリーしてくれたんでしょうか?

島影:メディアアートやデジタルファブリケーション使った作品を評価するコンペティションの中でも、YouFabはラディカルなアワードだと思っていました。伝統的なアワードとは異なる独自の評価軸を持っていて、他のアワードではすくい上げられないような面白いものを評価してくれそうだなと。

福田:意図してその評価軸を作った、というよりは、そもそもFabCafeの成り立ちが、そうした空気をつくっているのかも。ロフトワークの代表である林さんと諏訪くんに誘われる形でその設立に参加した福田ですが、それは「これなんか面白そう」という林さんや諏訪くんの感覚に「そうだね、面白そうだね」って感覚的に反応して始まっていて、決して理屈や概念じゃないんです。その感覚は世界にもつながっていて、台北やバルセロナ、バンコクの仲間たちもみんな、その感覚的「面白そうだね」にシンクロしている感じ。アワードとしても、その「面白そう」の動く先に自然に反応してきたから、いい感じで元気であり続けてこれたのかもしれません。

島影:OTON GLASSをどの側面から評価するかはいろいろな選択肢があると思います。たとえば福祉機器として見る、ハードウェアスタートアップとして見るとか。YouFabという側面から見ると、OTON GLASSは、現代における縄文土器的なものとして捉えれると思います。たぶん縄文土器って、土と縄があって、それを使って勝手に誰かが作り始めたものだと思うんですよね。何か大きな文脈の中で作られたものではなく、その時代の生活様式や民主化された技術から、草の根的に生まれてきたものなんじゃないかと思うんです。OTON GLASSもその感覚に近いんです。Raspberry PiがあってAPIがあって、さらに当事者としての問題意識があったから作ってしまった。そんな「野生のクリエイティビティ」をYouFabは評価してくれそうだなと思って応募しました。

福田:いま、おっしゃっていることは、Fabricationの核心に触れていると思います。「これがやりたい!」って強い気持ちがあったからこそ、Raspberry Piがあって、APIがあって、それらテクノロジーが統合的に吸い寄せられた。統合すべき意思さえあれば、それを支えるだけの材料は揃っているということですよね。それはYouFabが求めていることや、FabCafeが志向していることそのものだと思います。

OTON GLASSを実際に試してみる福田さん。見たいものに視線を合わせボタンを押すと文字が読み上げられる

作りたいものを媒体に人々が集まってくるのが、Fabが持つ力

島影:意思と材料は相互的な関係にあると思っていて、材料は意思の実現を支えてくれると同時に、意思を形成する際の想像力を広げてくれていると思っています。そういう意味で、今、FabCafeに当たり前のようにレーザーカッターがあるのって、すごいと思うんです。昔はレーザーカッターは、大学や企業の奥にしかないものでしたから。それが800円払ったら、お茶を飲みながら使える。そういった環境がすぐ手に届くところにあるかどうかで、人間の想像力は全く異なるものになると思います。

福田:確かに、そうしたテクノロジー進化の流れとか、3Dプリンタがいろんなマテリアルに対応するようになったこととか、いろいろことは大事ではあるけれど、一番重要なのは、「俺にとって重要な解決したい何かがある」という発見のそばにそれを解決してくれるかもしれない環境が身近に存在すること。うまく実現してそれがショーケース化すれば、レーザーカッターすごいねっていう単純な話ではなく、Fabって自分たちが解決すべき重要課題に出会ったら、その解決を行動に移せばいいという良き循環を起こすための装置となりえる。ということなのかもしれない。

島影:僕が感動していることは「これを一緒に作りましょう」と色んな人に声をかけた結果、様々な人が関わることでOTON GLASSが実現しているということです。メインはCEOの僕とCTOの2人で、残り20人くらいはそれぞれ本業を持ちながら、サイドプロジェクトとして関わってくれています。これだけの仲間が集まったことを通して、日本にはまだ可能性があると思えました。日本には技術を持っている人がいるし、それを既存の何かの改善に収まらず、今までにないものを発明していくことに応用していくモチベーションを持つ人が、こんなにもいるんだということを体感したからです。ビジョンを提示して、仲間を集め、共に作っていく過程で、当事者として関わってくれる人が増えていく。作りたいものを媒体に人々が集まってくるというのは、Fabが持つ力のひとつだと思います。作るという行為の過程で、人々の想像力や人々の関係性自体を変えていくことができるというのを、OTON GLASSの活動で示すことができればいいなと思っています。

(文:高橋ミレイ、撮影:加藤甫)
(編集:鈴木真理子)

YouFab授賞式でトロフィーを受け取った、OTON GLASSチーム。OTON GLASSチームに関わるのは20人以上。仲間を募りながら成長をしている