GRAND PRIZE
Penta KLabs
Category : GENERAL
By Collective Hysteria (インドネシア共和国)
コレクティブ・ヒステリア(Collective Hysteria)
2004年からPenta KLabsの組織を運営しているアーティスト集団。コミュニティ開発、若者文化、アートとテクノロジー、都市問題をテーマに活動。アートを通じた参加型の都市計画の中で控えめに既存のアプリケーションやテクノロジーを利用して人々の視野を豊かにし、既存の意味の転換、つまり「ハック」を意識してテクノロジーやツールを使用している。
複数のステークホルダーを繋ぐ公開イベント。2016年から開始されたこのイベントは、特定のエリアにてアートプロジェクトビエンナーレとなっています。この毎年恒例のイベントは、スマランの都市問題とアートエコシステム不足に対処するため、より地域内での理解を深めるために開催されました。美術展だけでなく、建築、都市プランナーなど都市づくりに携わるステークホルダー向けでもあります。
初のイベントは、Kemijenという洪水と津波に取り組む沿岸地域にある小さな村で開催されました。洪水によるストレスに日常的に晒される中で、人々がどのように現実に対処していくのかを把握しようと試みています。第2回目は、水問題に取り組むノンコサウィットという小さな村で開催されました。土地利用と水の生態系への影響を把握しようとしています。このフェスティバルは全てインドネシア中部ジャワの首都であるスマランで開催されてきました。アーティストとクリエイターが、作品を作る、という行為に止まるのではなく、地域の問題への取り組み、多くのステークホルダーを招待し、話し会う「場」を開始する、という重要な機能を果たします。
アートには自然と文化を形作る力があると信じています。社会彫刻を提唱したヨーゼフ・ボイスはステートメントにもあるように、私たちにはアートによって世論と社会への影響を広げる必要性があるのです。
12年のスマランでの活動後、ジョグジャカルタやバンドンのような大都市ではない場所で、なぜ未だ芸術という方法を使わねばならないのか、明確な理由が必要であることに気付きました。ここで芸術だけで生き残ることは非常に難しいため、都市事情そのものに関連する文化活動をしていくことを決めました。私たちは、他のビエンナーレとは大きく異なるアートビエンナーレを制作しています。時折スポンサーがつきますが基本的にDIYで開催しています。イベントを継続している中で、自分たちの立場と都市の事情を再認識しています。
リサーチは民族学的なアプローチから始まります。地域の日常の知識を収集し、私たちの研究に基づいてアートワークを制作するアーティストをキュレーションします。基本的には場所と空間に関連するアートワークを制作します。また、行政などのステークホルダー、村民、有識者としての学者、活動者としてのアーティストと様々なエレメントの人々を一同に集め、自分たち自身で水害から守る能力を高める方法などのワークショップなどを実施します。
都市や地域やコミュニティの問題をアカデミックな対象としてでなくだけでなく行政にも広めるためのシンポジウムを開きます。 ケミジェンの場合、市長を招き洪水の問題解決のための干拓地建設を加速することに成功しました。ノンコサウィットの事例では、多くの学者を招き、高地のメインタン水源へ樹木を保存することが、いかに重要かを共有することができました。
JUDGES, COMMENTS
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若林恵
編集者「場所」というものほど人の態度や行動やマインドセットを大きく変えるものはないのかもしれない。ちょっとした何かの配置が、人と人の距離や関係を縮めたり、引き伸ばしたりする。「イノベーション」というようなものを仮に「社会をアップデートする力」とするなら、「場所」ほど、それに大きく寄与するものもない。といってもそれは建物という「ハード」をファブリケイトするという意味ではない。そこで「ファブ」られるべきは、最も広義な意味における「環境」だ。場所には多種多様な人や自然や文化やプロトコルなどが網の目のように交錯している。とかく固定化し固着してしまいがちな、その複雑系をいかにハックし、新しい出会いや関係性をつくりだすことができるのか。暮らしや社会をDIYしていくという永続的でゴールのない実験。「コンヴィヴィアリティ」ということばを本プロジェクトほど的確に表しているものは今回の応募にはなかったと思う。
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Leonhard Bartolomeus
Artist collective ruangrupa & Gudskul Ekosistem今年のYouFab大賞受賞者について特筆すべきことの1つは、テクノロジーが主要な媒体としてほとんど関与していていないということです。彼らが応募した《PentaKLabs》は「場所作り」プロジェクトであり、一般大衆、アーティスト、そしてその自然環境の3つの間を橋渡しするというアイデアを実現させています。Hysteriaは、技術の進歩よりもまず人間や環境のニーズに焦点を合わせることに注力しました。現地を訪問して人と話し一緒に時を過ごすというフィールドワークを行うことで、イシューを集め、それをアーティストが現地の人たちと一緒に育て上げられるようにします。《PentaKLabs》は、単に介入するだけでなく、人々がアーティストの知識をハッキングしたり、逆にアーティストが人々の知識をハッキングしたりすることができるようにします。それが将来双方にとって役に立つようになればとの期待を込めて。テクノロジーデバイスはありませんが、その共有性やコミュニティエンゲージメントの実践をコンヴィヴィアリティ —・テクノロジーと見なすことができます。これは今後数年間注力すべきテーマであり、その上で私たちは、人類とその環境を再び結びつける授かり物としてのテクノロジーの活用に努める必要があると考えます。
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林千晶
株式会社ロフトワーク 代表取締役バイオ好き人間が、去年の夏、インドネシアの面白そうなところに行っていた。決して裕福なエリアではない。でもお金の有無に関わらず、「この地域を変えてやる」という前向きなエネルギーが集まり、Fab、バイオ、演劇などに亘り、前衛的な活動を興していた。「こういう場所が、次の時代の中心になるのかもしれない」と思った。その場所が今年のグランドプライズだと気がついたのは、受賞が決まった後のことだ。
受賞作品が、バイオやFabの先端を感じさせる「もの」ではなくなり、活動そのものを司る「こと」になったのも、「欧米」ではなくなり「アジア」に変わったのも、偶然ではないのかもしれない。そんな予感をさせる作品だった。 -
松村圭一郎
岡山大学文学部准教授 / 文化人類学者何のためにテクノロジーを使い、アート作品をつくるのか、根底から考えさせられる活動だ。そこには完成形としての「作品」も「商品」もない。モノをつくることがゴールではないからだ。彼らが向き合うのは、洪水や水問題などに悩む人びとの暮らしそのもの。コンヴィヴィアリティは、問題の解決を大きな制度や権力に委ねるのではなく、自分たちの手で解決しようと模索するなかでその潜在力を発揮させる。彼らは、人びととともにエスノグラフィックな調査を行い、その日々の実践的な知識を集め、アーティストたちが参加する場をつくりだす。学者や政府関係者も交えたシンポを行い、その知見を共有する。それはテクノロジーの「あたらしさ」に頼る作品づくりより、実質的に意味のある営みだ。人間の社会生活と切り離された技術はありえないのだから。彼らの活動は、人びとを巻き込み、自分たちでコンヴィヴィアルな場を創出し、問題に立ち向かう力が我々にあることを再確認させてくれる。