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スペキュラティブワークショップ / 長谷川愛と考える「仕事と暮らしが溶けている、少し先の未来について」イベントレポート

0.16, 2018

By YouFab Global Awards 2018実行委員会

FabCafeが主催するグローバルアワード「YouFab Global Creative Awards」は、2017年には26カ国から227のエントリーがあり、20作品が受賞。賞のなかには、企業がユニークなテーマを設定して作品を募るものもあり、今年はライオン株式会社(以下、ライオン)が参加します。「ライオン賞」と名付けられた本賞は「MERGE – 仕事と暮らしが溶けあう未来」をテーマとして、10月31日まで作品募集を行っています。

「パブリックとプライベート、デジタルとリアルなど、さまざまな境界の繋ぎ目が『溶けあう』社会とはどういうものなのか。そして、社会で人々はどのような体験を求め、日々を過ごしていくのでしょうか?こうした問いを軸に、「スペキュラティブに考える ー 仕事と暮らしが溶けている、少し先の未来について」と題したトークイベントが10月8日、FabCafe MTRLで行われました。

ゲストは同賞を設置したライオン・イノベーションラボの藤村昌平さんとアーティストの長谷川愛さん。未来の暮らしと仕事について、参加者を交えた様々な議論が展開されました。

テキスト=竹中玲央奈

働く意味や価値を問い、次世代の暮らしのヒントを得る

まずは藤村さんより、創立127年目を迎えるライオンの歴史と、ライオン賞設置の背景について説明。「ライオンは明治時代から歯ブラシや洗剤事業をやっていて、当時から培ってきた視点や技術で、今もなお人々の生活に密接に入り込み、企業としての価値を高めています」

しかし、時代が進むにつれ人々の生活も変化します。その過程で既存のものが新たなアイディアに取って代わられる可能性は大いにあると指摘をします。

「アメリカのクラウドファンディングサイトで出たのですが、マウスピース型の歯磨きで、振動で歯を磨けるものがあります。棒に毛がついている歯ブラシであれば歯を1本1本磨かなければいけないのですが、これは口に入れるだけで自動で洗ってくれる。歯磨きの所用時間は3分、というのが定説でしたが、これは10秒から30秒で終わります。加えて“自動の30秒”と“手を動かす3分”だったら前者のほうが良いのは当たり前です」

時代の変化やテクノロジーの発展で、自社のメインプロダクトがなくなる未来が訪れるかもしれない。「自分たちはどう価値を生み出すのか」という課題に直面するなかで、これからの時代へのまなざしを探るべく、「YouFab」のプロジェクトの実施を決めました。

「個人が働く意味や価値が問われ、物理的・精神的に仕事との距離が変わりつつある今、次世代の暮らしのヒントを見つけられないか。『自分たちの働き方はこう変わっていくのでは?』と考えたりするなかで、ライオンとして目指す新しい領域が見えてくることを期待しています。」

可能性が低いものが世界を変える

続いてアーティストの長谷川愛さんが自身の活動や作品について紹介。情報科学芸術大学院大学(通称IAMAS)でメディアアートを学び、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)へ進学し、その後ボストンのMIT Media Labで研究員に従事した背景をもち、特にRCAでの経験は人生を大きく変えたと語ります。

「未来を見通そうとしたとき、私たちの多くは“望ましい未来”を想像すると思います。でも、現実の幅は広いものです。例えばドナルド・トランプの大統領就任はほぼ“ありえない”と考えられていたと思いますが、実際はありえてしまった。変化が大きく予測がしにくいこの時代に、ブラック・スワン(*)という言葉もあるように、“気づかなかったけどずっとそこにあったもの(後づけの説明ができる)”が世界を変えたりします。RCAのデザイン・インタラクションズは、望ましいとか起こりうるだけではなく、そういった盲点”ブラックスワン”を突くプロジェクトに価値を置いていたと思います。」

(*)ブラック・スワン……ありえないと思われていた異常なことが実際に起きた時、予測できず強いインパクトを与えること。後付けで説明ができる。金融危機や自然災害を指すことが多い

長谷川さんの代表作品『I wanna deliver a dolphin…』は、 人の食料として絶滅の危惧に瀕している動物を代理母になって出産してみてはどうか?という問いかけとして作られたもの。人口過多で食料危機が来ると言われている未来に向けて「人間」を産む事の倫理や“自分で産んだ”ことで生じる愛情や親しみの気持ちによって“動物を食べること”について考え直す機会が生まれるかもしれない。そういった視点から、問題を提起する作品です。

長谷川さんは、“現実にはありえなさそうな事例”をリアリスティックに作り、見る者に問いを投げかけます。この「問いを現実として考えるためのデザイン」というスペキュラティブデザインの考え方は、今回のライオン賞のようなアワードにおける大きなカギなのかもしれません。

2030年の世界を考える

ゲストのセッションが終わった後は、参加者を中心にグループワークが行われました。そのお題は、

Q1. 2030年のあなたはどこで、誰と、どのように働き、暮らしていますか?
Q2. その時のあなたに起こる問題はどのようなものでしょうか?

各グループから聞こえてきたのは、
「場所にとらわれず、家族でドローンを使って好きなところに移動して生活を営む」
「自身が地方でやっている芸術祭に宇宙人のアーティストを呼び、知られざる技術を教えてもらったり、新たな気づきをもらう」
といったユニークなものばかり。

ワークの後には、藤村さんと長谷川さんによるそれぞれの未来予想図へのレビュー。「文明が発達しすぎて様々な問題が起こると、その対策としてそれぞれの小さいコミュニティが監視される社会が訪れる」という意見について、「中国は 徹底的に監視して数値で評価をしてバサッと切っていく世界になっている。ただ10年後、そこで育った若い子が作る世界は面白いかもしれない。」(藤村さん)

「それは野生に戻るということでもあるのかなと。ビジュアルとしても面白いかもしれません。1930年くらいに書かれた『素晴らしき新世界』というSF小説があります。すごく管理されている世界で、鬱だと思ったらソーマという薬を飲み、幸せに生きられる。でも、そこから抜け出したいという人も出てきて、森に戻っていく。その話の続きみたいだな、と。その世界では管理側はどこまでも対象を追いかけていって、更に管理していくのかと考えるとまた面白いなと。」(長谷川さん)

 

現代では、これまでの常識では実現性が低いと思われたものが“ありえる”世界になってきています。だからこそ、働くこと、暮らすこと、様々な未来の形を想定した上で新たな価値を生み出す姿勢が必要とされていると言えるでしょう。

ライオン特別賞の応募締切は10月31日。2030年の仕事、暮らし、それらが溶け合った新たな形の日常とは、いったいどんなものなのでしょうか。自身の考える“MERGE”の形を作品として応募し、ぜひ問いを投げかけてみてください!