Voltaic Realism
By Keisuke Fujita
JUDGES,
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2018年8月1日-10月31日まで募集が行われた
YouFab Global Creative Awards 2018 の受賞作品を発表!
32カ国、総計158作より選ばれた、16の受賞作をご覧ください。
2019年2月17日(日)から3月3日(日)まで、kudan house (東京・九段下)にて、上位受賞作品を中心とした受賞作品を展示します。
金魚が水槽の中を動き回り、その金魚の動きに合わせ、ハンマーがミニチュア家具に振り降ろされる。人間の生活が生態系に与える影響を問題提起・風刺した作品。
工場で働く労働者の脳波を計測し、彼らの知覚・認知状態を反映したニットを編んだ作品。機械製造主流の現代における「人間の手作業」を象徴すると同時に、自動化に支えられた経済への無名の人々の貢献を反映している。
日本
石や枝などの”自然物”にセンサーなどの機能を組み込み、傾きによって音量や明量などのアウトプットをコントロールするデバイス。自然物がテクノロジーとともに日常に溶け込む風景を模索する。
JUDGES, COMMENTS
YouFabアワードというのは審査がとても難しいアワードです。
デジタルファブリケーションという技法自体を主題としているがゆえに、
そこから出てくるアウトプットについて限定を設けていないからです。
それは工芸的なものでも、アート的なものでも、あるいはテクノロジカルな
プロダクトでもありえます。
工芸なら工芸、アートならアート、プロダクトならプロダクトについてであれば、
私たちはそれぞれのジャンルにおいて歴史化された価値基準や優劣の基準をもって、
そのアウトプットの面白さやユニークさ、巧拙を論じることができます。
けれども、このアワードにおいては、その価値尺が必ずしも有効ではありません。
応募された作品を見ているうちに、工芸的観点、アート的観点、プロダクト的観点と
いったものがごっちゃになっていくなかで、じゃあ、さて、
いったい自分たちは、何を基準に、優劣を決定することになるのか、
頭を悩ませることとなります。
おそらくは、ここでは、審査員もまた試されているのです。
ジャンルを超えたところで、新しい時代の「ものづくり」は一体、
どういった価値尺で、どういった論点から評価されるべきなのか。
新しい何かには、新しい価値基準が必要となります。
「ポレミカ!」というお題の元、「議論を喚起させる作品」を広く求めた
今回のアワードとなりましたが、社会的な論点を表明するためだけのことであれば
論文やエッセイを認めればよいわけですから、結局のところ、
それは「なぜ、もののかたちを取らなければならないのか」という
問いが必然的に含まれることとなります。
審査の過程で見えてきたのは、おそらく、
「もの」として表現されることに必然性があるものには、
その必然性に叶うだけの強度があるということだったように思えます。
そこには、つくっている人の予期せぬ衝動のようなものが
色濃く反映されているようです。
アイデアはアイデアです。それをかたちにするためには、
「かたちにする」という行為への強い執着が必要となります。
強いアイデアを持つこと。同時に強い執着を持ってそれを
物理的なかたちへと変換すること。
そのふたつがうまいこと合致したところに、
名付けえぬ「何か」が立ち現れてきます。
それを何と呼ぶかは、審査員にしても定かではありません。
みなさんはここに選出された作品を見て、それをどう定義するでしょうか?
その定義の難しさこそ、このアワードが根源に抱えている
ポレミックな本性なのです。
若林恵
編集者
若林恵
編集者
1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。