FINALIST
Voltaic Realism
Category : GENERAL
By Keisuke Fujita (日本)
ツイッターのタイムラインに溢れている「自殺したい」というツイートは単なるデジタル信号や光の流れのようなもの。しかし、それぞれのツイートの裏には一人の人間がいる。ツイート一つ一つが、人間の心の苦しみを表現しているのだ。そう考えると一つの疑問が頭に浮かぶ。デジタル信号や光自体にそういった感情は込められているのか、人間はそれを認識できるのか。このプロジェクトを開始するにあたり、重要な出発点の一つとなったのが「言葉の重さ」だ。人との会話における言葉、手紙に書く言葉、キーボードで打つ言葉。これらは言語による感情表現という意味では元々全て同質であるはずだ。しかし、それぞれ違った力を生む。私は、もし激しい感情のこもった自殺ツイートに実際に重さの概念があるとすれば、それはどの程度の重さなのかを探ろうとした。Voltaic Realismは、元々言葉から変換されたデジタル信号を再変換する。一種の心が、炭に変換されるのだ。削られて床に積もっていく炭は何を示唆するのか。炭素に感情は宿っているのか。誰かの心が具現化された状態なのか。こういった疑問が次々に浮かぶ。
毎年80万人の人々が自殺し、自殺未遂者の数はそれを遥かに上回る。親しい人が自殺を止められる場合もあるが、人の心の闇に気づくことは難しい。ある日、私は「死にたい」というツイートを日本語で検索した。その瞬間画面はツイートで埋め尽くされ、毎秒新たなツイートが出てきた。他の言語でも結果は変わらなかった。人というものは、意識的もしくは無意識的にネガティブな感情から目を逸らそうとする。生と死、光と影、勝利と敗北といった概念は、お互いを暗示し、二つで一つだといえる。ネガティブなものを直視しないということは、残り半分を無視することを意味する。目を向けたくないものから逃げて、それで本当に社会の真の姿を知ったと言えるだろうか。「事実に目を向けることで真実を知る」これがこのプロジェクトを始めたきっかけの一つだ。自殺に関して善悪を決めつけたり、美化したり、非難するつもりはない。ただ、自殺は究極的に恐ろしくて悲しい行為だ。人が死にたくなる原因は状況によってそれぞれ違う。普通、理由というものは目に見えないが、私はそれを一つの現実として「明らかにしたい」と考えた。
今日、コミュニケーションの大部分をメールやオンラインチャット、SNSといったデジタル信号が占めている。メディアが飽和しつつある今の時代、情報の流れはとても速い。このプロジェクトが呈する疑問として、「たとえささいな情報であったとしても、それを軽視していいのか」「デジタルコミュニケーションの物理的影響を見過ごしてはいないか」がある。さらに、本プロジェクトはリアルタイムの情報を素材として扱うため、この作品を見た人は実際に地球上のどこかでリアルタイムで起こっている出来事を目撃することになる。スマホやラップトップの光っている画面を見るといった従来の体験とは別物だ。言語学的に言えば、ツイートの多様性は「自殺」というトピックの一般性を拡大することにつながる。結果的に、ツイートを見た人に自分もコミットしているんだと感じてもらうことができる。そしてそこには文化的・民族的な壁は存在しない。
リアルタイムの「自殺したい」ツイート(世界中の人々の感情とデジタル信号)、固形の炭、
Size:直径3m、重量:100kg
JUDGES, COMMENTS
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林千晶
株式会社ロフトワーク 代表取締役毎年、世界で80万人が自殺で命を絶っている。80万という巨大で実感のない数字に質量を与え、私たちが「感じる」きっかけをつくる作品。思想でアラートをあげるのではなく、リアルに、炭素の塊から0.0054gを削り落とすという動作だけ。そこに何を感じるか、解釈と行動の主体性は観客側に担保されている。アートは、時に社会活動のいれものとなる。