2016年9月30日、トークイベント「Tales Found〜エモーションのスイッチ〜“感じる”ものがたりのデザイン」がFabCafeにて開催されました。ヤマハ株式会社デザイン研究所 所長の川田学氏、Takramディレクターの渡邉康太郎氏、東京大学大学院情報理工学系研究科講師の鳴海拓志氏が登壇し、五感に働きかけ、感情を揺さぶる「エモーションのスイッチ」について議論を交わしました。
( 文=長倉克枝)
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2016年9月30日、トークイベント「Tales Found〜エモーションのスイッチ〜“感じる”ものがたりのデザイン」がFabCafeにて開催されました。ヤマハ株式会社デザイン研究所 所長の川田学氏、Takramディレクターの渡邉康太郎氏、東京大学大学院情報理工学系研究科講師の鳴海拓志氏が登壇し、五感に働きかけ、感情を揺さぶる「エモーションのスイッチ」について議論を交わしました。
( 文=長倉克枝)
最初に登壇した川田氏は、ヤマハで楽器などのデザインをしている立場から、エモーションのスイッチについて普段考えていることを語りました。楽器が奏でる音楽は、感情を揺さぶるものです。その楽器と向き合い、つくるにあたり、川田氏は「音楽ってなんでしょう?」「音ってなんでしょう?」「楽器ってなんでしょう?」と、そもそもから自問自答していくと言います。たとえば、音楽とは?に対しては、
「音楽を聞いてもお腹はいっぱいにならない。でもこころにとって大切。生命維持に直接役立たなくても、感情に直接働きかけて、人々との共感や連帯を生み出すのが音楽です。日常に彩りを与える。でも時に、人が生きる希望や生きがいになる。今この瞬間に、味わいを与えるものが音楽です」
と言ったように。一般に、道具やプロダクトは使う=USEものですが、川田氏は、楽器とはUSEではなく、PLAYである点を強調します。
「お客さんはユーザーではなくプレイヤー。楽器は表現のための道具で、PLAYするものです。USEには目的があり、目的を達成するための便利さを追求しますが、PLAYは、何か目的を達成するとまた次に何かをしたくなる、目的を生成していくものです。それによって使う楽しみが深まっていきます」(川田氏)
次に登壇した鳴海氏は、川田氏の話を受け「楽器はUSEではなくPLAYというのは示唆がある」として話し始めました。なお、鳴海氏はヤマハでピアノ教室を開くことができる資格をもつピアノ奏者で、趣味でテルミンも弾くとのこと。
「良い楽器は身体の一部になる。良い道具も同様です。使い続けると、モノとそれを使う人の境界が曖昧になっていく。モノを使うことで人の状態が変わるという、モノと人の関係をデザインすることで、人の行動や気持ちを変えられます」
鳴海氏はバーチャルリアリティ(VR)の研究が専門。人は五感を通じて世界から情報を得て、感じ、考え、行動をします。つまり、身体の動きや感じ方と、感情の間には強い結びつきがあります。そこで、鳴海氏は、五感の入力を変えることで、使う人の気持ちを変える「情動のメディア」を作っていると言います。エンジニアリングとしてリアリティを作り出す一方で、認知科学や心理学の知見からリアリティとは何か、を考えながら研究をしている立場から、感情に働きかける自身の研究を紹介しました。
例えば、「扇情的な鏡」という作品では、ディスプレイが鏡になっていて、覗き込むと、自分の顔がちょっと笑顔になります。そうすると気分が楽しくなる、という感情に働きかけるしかけになっています。これは「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」という心理学の知見に基づいて、身体の反応に働きかけることで、感情に作用するのだと言います。
「身体感覚や身体の動きが、エモーションのスイッチになる。それも少しではなく、人の行動や感情に大きな影響を与えている。身体をどのように使っていくかを考えることで、心を動かすデザインができるようになるのではないでしょうか」と、まとめました。
最後に登壇した渡邉氏は、テレビ番組のアートディレクションから車のデザイン、プロジェクトなど幅広いジャンルに携わっています。共通するのが「ものづくりとものがたりの両立」。
そんな渡邉氏が考えるエモーションのスイッチは、「主体性や参与によって、初めて押されるもの」だと言います。その例として挙げたのが、ノーマン・ロックウェルの「噂」という作品です。ある人からある人へと、次々と噂を語り継いでいく様子が描かれています。
「語り継ぐことで読者はいつの間にか作者になる。聞き手が語り手になる。語ることで、つくることに参与している」(渡邉氏)
さて、この主体性や参与は、コンテンツのデザインにどのように関わってくるのでしょうか。一般に、プロダクトなどのコンテンツデザインは、「広さ」と「深さ」がトレードオフになります。大衆向けのプロダクトは広いユーザーに届けられますが、個人の感情に突き刺さる「深さ」はその分なおざりになります。一方、個人に関係がある「深い」プロダクトは、その分広い人々に届けるのは困難になります。そこで渡邉氏は、「深い」デザインを「広く」するために、主体性や参与を付与していった、自身のデザインの仕事を紹介しました。
昨年5月に銀座にオープンした森岡書店は、置いてある本は1冊のみ。その作者に関連するインスタレーションや写真が店内で展示されるなど、「深さ」にこだわったお店です。ただし、置いている本や店内の展示は1週間ごとに変わります。
「1週間で本が変わる。通りがかった人が、これは自分に向けられたものなのでは、と独自の解釈を投影してしまう。そこで見ている人が参与できる。1週間ごとに変わることで、広さが付与される」と渡邉氏。
また、石けんを使うと、次第に中からメッセージカードが出てくるというプロダクトデザインの仕事では、「石けん」というひとつの商品を、「手紙」「ギフト」「化粧品」「文房具」と、あらゆる人が自分なりの枠組みで解釈してくれたエピソードを紹介。「多義的であることは重要。そしてメッセージカードという媒体性が人の多様なストーリーを運ぶ器になる」と言います。
続いて、ロフトワーク代表取締役の林千晶氏がモデレーターを務め、トークセッションが行われました。
「エモーションのスイッチについて3人とも言ったのが『主体性』。主体性を生み出すために何を心がけているのか?そもそも主体性のデザインは最近注目されるようになったのか?」という林氏に問いかけに対して、川田氏は、
「『主体性』は疑うということ。情報化の今の時代に情報は溢れていますが、『でも、それってホント?』と疑ってみる、もう一度、自身に問い直して見るといいでしょう」と言います。
渡邉氏は、主体性が重視されるのは今の時代性であり、2つのポイントがあるためだと言います。
「1つめは『刀は持ち主の侍にしか振りこなせない』といったように、手法とは元来開発した人にしか使いこなせないもの。手法があふれる時代だが、そこをなぞってもイノベーションは生まれない。2つ目はネットの普及であらゆる情報が検索で手に入ることで、能動性や主体性が欠如してきた。そこで検索しても出てこない物を自分の頭で考え、体で行動する主体性が重要になってきた」(渡邉氏)
また、鳴海氏は、自ら主体性を持って取り組まないと学びにならないという例をスポーツ選手のルーチンを例に解説した上で、「自分が何かをしたから、何かが起こった」といったように自分で世界に働きかけていることを感じられる「行為主体感」が認知科学の分野でも今重視されていると語りました。
「行為主体感を得られるのは、『こうしたらこうなる』という脳内でのシミュレーションとその結果得られた感覚が一致しているから。予測とフィードバックが重要なんです。VRで予想外のフィードバックをすると、何か違うと自分の頭で考えるようになる。うまい予測をつくることで、自分にできなかったことができるようになるかもしれない」(鳴海氏)
インターネットが普及した現在の情報化社会は、身体を伴わない大量のデジタル情報で溢れています。これに対して、林氏は、「もう一度身体を感じる行為でしか得られない達成感や感情といったものが、大きく問われ直しているのではないかという気がする。身体と主体感、感情を掘り下げたい」と3人に投げかけました。
これに対して、渡邉氏は、普段のミーティングでは全員が立って参加し、資料は印刷して壁に貼り、参加者はペンを持っていつでも書き込める状態にしていると言います。「立つことで、身体性と主体性が得られ、ペンを持つことでそこに参加してもいいというシグナルになる。Skypeでは得られない参与が得られる」(渡邉氏)というわけです。
川田氏は、「知覚表現には触覚が刺激されるとか、音を聞きながら別の感覚が刺激されるとか、人を多面的に刺激している。感覚のチャネルごとに、違う解釈ができる。そこで、自分だけがそれを感じているというのが強くなる」と身体とそこから得られる知覚、主体性の関連を説明しました。
また、身体と感情の関係について鳴海氏は、コミュニケーションに着目して言及しました。
「人間以外の動物は弱っていることを敵に知られたくないので多くは泣かない。一方、人はコミュニティで共有して補い合っている。コミュニケーションは感情の基盤です。感情にならない身体反応を捉えるパーソナルな体験と、それを例えば『怒り』と名付けて他の人に伝えることで社会を回すソーシャルな体験と両方重要です。でも、今はソーシャルに寄りすぎている。なんでもSNSで共有します。もう一度、個人に戻る瞬間があってもいいのではないでしょうか」
最後に、「エモーションのスイッチを押される、大好きな時間をそれぞれに語ってもらいましょう」と林氏。なお、林氏自身は、「温泉」とのこと。川田氏は「猫」、鳴海氏は「起きた後のあまり意識がない時」、渡邉氏は「総合芸術としての食」ということでした。
本イベントは、FabCafe主催の「YouFab Global Creative Awards 2016」ヤマハ賞のテーマ「エモーションのスイッチ」の関連イベントとして開催されました。冒頭では、ヤマハ株式会社の神谷氏から、「文化を生み出すための新しい視点、感情を揺り動かすための新しい視点を作品に込めて応募して欲しい」というコメントがありました。応募を検討している方にとっても、登壇者らの対話からは多くの学びがあるのではないでしょうか。