今年で5回目を迎えるYouFab Global Creative Awards 2016(YouFab)。今年はヤマハ株式会社の「感動を・ともに・創る」というコーポレートスローガンと呼応して、既成の枠を超えた新たな『エモーションのスイッチ』の創造に挑戦するクリエイターを表彰する、「ヤマハ賞」を特設。連動イベント「ART FOUND」と「Tales FOUND」を開催しました。
9/21に開催された「ART FOUND 〜エモーションのスイッチ〜 作品がアーティスト自身の心を動かすとき」では、「VOLOCITEE Inc.」代表の青木竜太さんをモデレーターに迎え、クリエイタートークセッションと、参加者同士で「エモーションのスイッチ」を探求するワークを開催。アーティストやクリエイターのエモーションのスイッチとは? 心を動かすものって一体何? そんな問いをアーティストやクリエイターに投げかけ、参加者もそれぞれ自身の作品を手に考えた、濃厚なイベントの様子をお伝えします。
(文=YouFab2016 事務局)
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アートについて語る時、私たちは「作品が鑑賞者の心をいかに動かしたか」に注目しがちになる。けれど、アート作品はそれを生み出したアーティスト自身にとっても、意外な発見や驚きをもたらすことがあるのではないかーー?
そんな仮説から生まれたイベント「ART FOUND」は、「VOLOCITEE Inc.」代表の青木竜太さんをモデレーターに迎え、全3名のクリエイター、アーティストのトークセッションと、参加者同士で「エモーションのスイッチ」を探求するワークを行いました。まずは、各登壇者の自己紹介からスタート。
青木竜太さんが代表を務めるVOLOCITEE Inc.は、コミュニティの創出を専門とし、共創の仕組みを構築するデザインファーム。子ども向け版TEDx や芸術家と技術者がアート作品を制作するArt Hack Day なども手掛けています。
つづく國本怜さんは、「音を聴く」とはどういうことか?を追求し、空間を含めて音楽をつくる活動を行う音楽家、サウンドアーティスト。メディアでも話題になったGoogle Play Music “35 million songs Billboard”や、Crystal Universe、Tokyo Colors. 2015など、ご存知の方も多いのではないでしょうか。星の動きをシミュレーションしたり、風のデータをセンシングしてその“波”を光で表現したり、様々な角度から音を表現する作品は必見(聴)です。
野外音楽フェスティバルTAICOCLUBを主宰する安澤太郎さんは、会場の環境、朝から夜という時間を音楽を紐付け、ただ楽しむだけではないサプライズのあるフェスを開催しています。現在のスタイルでのTAICOCLUBは2018年で幕を閉じるというニュースがありましたが、今後も想像力が走り出すような、新しい表現のTAICOCLUBを展開するとのこと。
YouFab2014でグランプリを受賞したAKI INOMATAさんは、動物とともに作品をつくる美術家。人間のワンピースの端切れをミノムシに纏わせたり、飼い犬の毛と自らの毛髪でそれぞれコートを制作し交換したり。そしてYouFab2014の受賞作品は、世界の都市を模った「宿」を3Dプリンタでつくりヤドカリに渡し、国境の概念を見る者に考えさせるような作品を制作しています。
……と、ここで、会場全体でも参加者同士の自己紹介が! 「感情をふるわせるスイッチって面白そう、私たちのスイッチってなんだろうね?と話して今日来てみました」という親子で参加された方や、「受け取る側の“スイッチ”を押すために制作しているけれど、自分の“スイッチ”が押された瞬間って難しい…」というクリエイターの方の声が聞こえてきました。
会場がひと盛り上がりしたところでトークセッションが再開。青木さんが「そもそもですが、みなさんは何がきっかけで、どんな感情から作品をつくり始めたんですか?」と問いかけます。
「小学校が緑豊かな学校で、でも学校の外はコンクリートジャングルだった。まるで違う世界に感じた“自然って何?”という違和感から始まった気がする」(INOMATA)
「感情が作品に影響することは…ない(笑)。物理学や心理学のアプローチで“聴く”環境をつくっているので、リサーチ型の制作スタイルといえるかもしれない。たとえば、心拍と完全に一致するリズムの音楽に人は違和感を覚える。だから心拍と少しズレのある音楽を聴くサービスをつくったりしました」(國本)
「TAICOCLUBスタートのきっかけは自分自身がある音楽祭に行ったとき、楽しい!って思ったこと。アーティストがどうすれば気持ちよく思えるか。お客さんが、最高!って思えるか。人の感情をコントロールするのは無理だから、まずは自分が楽しむ。だからこそ、人の喜びに触れられたとき、自分のクリエーションのスイッチがはいる」(安澤)
いざ制作する時のプロセスでは、どんな感情の起伏があるか?という問いには、「共同制作者が動物なので(笑)打率低いですよ。でも失敗して落ち込んでもいても展覧会はあるわけで、寝かせたりしながらとにかくつくります」(INOMATA)
作品に対する他者の評価について、どう受け取っている?という問いには、みなさん「批判が起こるのはむしろいいこと!」と一致。
特に國本さんは「面白い!という評価は嬉しい反面、“イメージしやすい”ということで若干凹むことも。ちょっとよくわからない、と言われると逆に燃えてモチベーションになる」といいます。また、制作する時に多様性のあるチームづくりも作品の評価につながるといいます。「大前提として、コンセプトに忠実に表現しようとするみんなの思いや感情がぶつかり合うからこそ、リスペクトある人とチーム組む。結果、ぶつかり合っても妥協せずに、その衝突を昇華できた作品も生まれた」。
続いて「失敗したとき、どう乗り越えてきた?」という質問が。
「vol.1の開催でものすごい失敗をした。終わった後、何の記憶もないほどに。自信があったのにできない悔しさ、伝え方を改善すればできるはずという新しい自信から、vol.2の開催につながった」(安澤)
「アーティスト歴12年くらいで、これまで約80の展覧会を行ってきた。でも、3Dプリンターはアートじゃない、デジタルで作っていて手で作っていないからズルだ、等々いろんな意見を聞いてきた。でもアートメディアdesignboomに取り上げられたとき、翌日大量の問い合わせメールが届いて、ああ時代が変わった、やってきてよかった、と思えた」(INOMATA)
「アートにおいて、批判的な言葉は褒め言葉。新しいことやろうとしている証拠であって、どれも時間の問題。時間と感情には相関関係があり、作品をつくる熱量と時間には比例関係がある。時間が経てば経つほど熱量は落ちるわけで、そのバランスをとるのが大事」という國本さんのお話に会場がふむふむとうなづくなか、トークセッションはいったん閉幕となりました。批判されてこそ価値があるという意見に、感情のスイッチは一筋縄にはいかないこと、そしてコントロールしなくてもスイッチが入るような設計を理性半分感情半分に行うことが鍵になるのだろう…という気づきを得られるセッションでした。
つづいて登壇者と参加者を交えたワークショップを実施。冒頭に、ヤマハ株式会社・神谷泰史さんによる「ヤマハ賞」の説明と、この賞へかける思いをお話しいただきました。
“自分や誰かの心を動かし、感情を揺らすきっかけを『エモーションのスイッチ』と総称できるならば、そのスイッチとは一体どのようなものでしょう”(YouFab2016Webサイトより)
「サイトでも掲げているこの問いに、答えはないと思っている。そもそも感情の動きで作品つくってるわけではなかったり、誰かを動かしたいわけではないこともある。『感動を・ともに・創る』というヤマハのコーポレートスローガンには、創る人のクリエイティビティに寄り添いたいという思いがつまっている。YouFab2016を通じて、『感情を揺り動かす新しい視点』を明らかにしていけたら嬉しい」(神谷)
ワークは、「自分の作品を相手に見せ、作品をみた人が配布されたシートにそってその作品の“エモーションのスイッチ”(何に心が動いたか)を書いてみる」というもの。仕事で制作した作品を見せる人もいれば、ちょうど週末に開催されたばかりのTokyo Art Book Fairでの展示作品を持参した人もいたり。1つの作品に対して、グループ4名ほどが表現する「エモーションのスイッチ」は、似ているものもあれば、まったく異なるものもあったようです。
講評会ともまた違う、自分のエモーションのスイッチと人のスイッチの表現しあうワークは、熱くも静かな集中に包まれていました。
そして最後は、FabCafeのフードを囲んでネットワーキングパーティ! 登壇者にトークの続きを聞いたり、ワークの続きをしたり。美味しい食事でさらに感情も豊かになったのか、最後の最後までワークを続ける人もいて大盛り上がりのセッションとなりました。