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YouFab 2015 授賞式レポート(前編)

By YouFab Committee

Fabは新たな「つながり」のフェーズへ

去る1月22日、FabCafeが主催するデジタルファブリケーションの国際クリエイティブアワード「YouFab Global Creative Awards 2015」授賞式が行われました。26カ国・152件もの応募からみごと選ばれた受賞作の紹介、審査員による本音のクロストークなど、当日の様子を前・後編にわけてレポートします。

(文=内田伸一)

YouFabは、3Dプリンタやレーザーカッター、CNC ミリングマシンなどのデジタル工作機械をテーマにした、クリエイティブ・コンテスト。これらで生み出す作品に加え、モノを生み出す新しい機械そのものも対象です。デジタルテクノロジーが変える「ものづくりの未来」を、創造力でさらに面白く、パワフルに——そんな想いから誕生した試みです。

第4回の今年は、FabCafe Tokyo、Taipei、Barcelona、Bankok のFabCafeグローバルが主催となり、上述の通り世界中から作品が集まりました。

当日は100名以上の方が集まり、授賞式は大盛況となりました。

グランプリ|無数のパーツが織りなす、繊細・優雅なFabドレス

YouFabのカテゴリーは、Products(製品)、Art(アート)、Machines(デジタル工作機械)、Beyond(上記のどれにも当てはまらない、または上記の組みあわせ領域)と、今回から加わったHack(既製品のハック)の5分野。これら全カテゴリーから栄えあるグランプリに輝いたのは、米国のデザインスタジオ・nervous systemによる《Kinematics Dress》(カテゴリー:Products)です。

《Kinematics Dressは、3Dプリンターで作られたワンピース。シースルー調の繊細で軽やかなフォルムが特徴ですが、じつはこれ、大小の三角形パーツ数千個が、蝶つがいの仕組みでつながれたままプリントされています。1枚に畳んだ状態で形成されるため、プリンターの出力サイズを超えたドレスも実現できるのも、技アリの発想ですね。あらかじめ着用者の体を3Dスキャンしてモデリングできるため、着る人ごとにぴったりなサイズを作成可能。専用アプリ『Kinematics Cloth』を使うと、ドレスのサイズやスタイル、柔軟性や模様もカスタマイズできるそうです!

デザイン、シミュレーション、デジタルファブリケーションの組み合わせで、複雑でカスタマイズ可能なものを作る―—そんな新しいものづくりを具現化した点が、受賞の決め手に。彼ら自身は、同作品の紹介映像でこんな風に語っています。

「このアイデアはまずブレスレットづくりから始まり、ドレスへと発展しました。個々の構成パーツは固いものだけど(ナイロンのレーザー粉末焼結による)、組み合わせ方の工夫で身体にフィットし、動きやすい衣服ができました。私たちは、デザインやものづくりに工学・科学技術を組み合わせることに挑戦しているんです」

nervous system のお二人は残念ながら、当日はニュージーランドでの会議のため出席できませんでしたが、メンバーのジェシカ・ローゼンクランツが喜びの声を伝えるビデオメッセージが会場に流れました。

なお彼らは今回もうひとつの作品、《Growing Objects – 3D printed zoetropes》(カテゴリー:Art)でもファイナリストになっています。これは19世紀の映像装置「ゾエトロープ」をヒントにしたもの。3Dプリンターによる彫刻を回転させて光をあてると、生物の成長過程を描くアニメーションになる秀作です。

準グランプリ|コンピュータ制御に直感を注ぐ、ジェスチャー式工作機械

続く準グランプリを獲得したのは、チリの建築家にして発明家、ディエゴ・ピノチェトさんのMaking Gestures: A personal Design and Fabrication system(カテゴリー:Machines)。どこかミステリアスな作品紹介映像は、ご本人がクンフーマスターのように両手をかざすと、目の前にあるマシンが電熱線カッターで素材を切り取っていくというものでした。

その正体は、ユーザーの動作に反応してリアルタイム操作できる5軸CNCマシンです。もともと工作機械の動作をコンピュータで厳密に制御できるのが長所のCNC(コンピュータ数値制御)装置に、あえてアナログで直感的な身体をつなぐ逆転の発想? 進化のしかた次第で、効率化から実験的な創造手法まで、ものづくりの多様な未来が開けそうです。

会場にはピノチェトさんご本人も登場。じつはマシーンでつくった作品やマシンの小型モデルも携えてきてくれる予定が、チリの税関でなぜか没収されてしまう残念なトラブルがあったことを明かしました。しかし彼は笑顔で「こういった新しい挑戦をYouFabで評価してもらえたことが、とても嬉しい」とあいさつ。日本文化にも関心があるようで、今回の滞在がまた新しいアイデアにつながることを期待しています!

 

なおグランプリ、準グランプリに贈られるYouFabトロフィーは、アーティストの名和晃平さんによるデザイン。これらも高精度の3Dプリンターで生まれたものです。

当日参加できなかったnervous systemのかわりに、ジェシカのMITとハーバードでの同級生だった株式会社アルゴリズムデザインラボ (ADL)の重村 珠穂さんが、代理人としてトロフィーを受けとりました。

審査員特別賞|異質なもの同士が「つながる」可能性

今回は「審査員特別賞」も新設されました。Fabの広がりを反映した応募作の多様化を受け、審査過程で生まれた授賞枠。選ばれたのは、以下4作品です。

《町を編む》(宮田明日鹿/日本)は、90年代の家庭用電子編み機を改造し、人々にとっての想い出写真をニット化するアートプロジェクト。《Papertype》(和田由里子/日本)は古くから存在する活版印刷技術と紙という素材にレーザーカッターを使用したプロジェクト。《Artifacts(Jon McTaggart/イスラエル)は、産業用ロボットアームによる「手仕事」で古来の壷を思わせる工芸品を生み出す挑戦。そして、カラフルな消しゴムサイズの「電子タグ」を組み合わせるだけで、内蔵された動きセンサーやLEDライトなどの機能を無線連携できるMESH : スマート DIY プラットフォーム》(MESH プロジェクト/日本)。

いずれも、異質なもの同士や、これまで専門知識が必要だったものを新たな形で「つなげる」ユニークな発想が印象的です。工作機械の特性をストレートに活かすものと同時に、一見まっとうな使い方から逸脱したようなチャレンジで本質に切り込む、そんな作風も目立ちました。これをFab文化の成熟過程の一端とみることも、できるかもしれません。

当日は、受賞者の方一人ひとりに、審査員の田中浩也さん(慶應義塾大学SFC准教授/FabLabJapan 発起人)と、四方幸子さん(クリエイティブキュレーター)から賞状が手渡されました。

千差万別のものづくりアイデアが集う、受賞作品展

FabCafe Tokyoでは、数作の実物を含むYouFab受賞作品展も開催しました(1月23日 〜2月8日)。5カテゴリーで受賞した25作品は、紹介してきたもの以外にも、Fabによるものづくりの現在地点と未来を感じさせる多彩なアイデアにあふれています。

こうした表現の幅の広がりは、YouFab アワードチェアマンの福田敏也(FabCafe共同設立者/株式会社トリプルセブン・インタラクティブ代表)がこの日のあいさつで述べた、こんな言葉にも重なるように感じました。

「Fabにおいてはテクノロジーに加え、ネットワークも重要な要素になると思っています。たとえばFabCafeが世界の各都市に広がり、ほかにも同じような場がいろいろな所で生まれてきたことで、場と場がつながり、それを通して人と人もつながるようになってきました。そして、ものづくりの主役はあくまでも人です。YouFab Awardsにおいても、この試みによって新しい才能が知られ、彼らがつながるようにもなってきた。いま、すごく面白いフェーズを迎えつつあると感じています。」

後編では、審査員から田中浩也さん(慶應義塾大学SFC准教授/FabLabJapan 発起人)と、四方幸子さんクリエイティブキュレーター)を迎え、Fabのいま・これからを本音で語り合ったクロストークの模様をお伝えします!

 

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