文=金岡大輝(YouFab Global Creative Awards 事務局)
去る9月19日、FabCafeが主催するYouFab Global Creative Awards 2017と、WIRED日本版が主催するCreative Hack Awardの合同で、メイカームーブメントのその先 〜HACKとROCKの現在形〜を開催しました。
前編となる第一部ではROCKとHACKを軸に、ひとと技術、その使い方、そしてその批評について話が及びました。
第一部のレポートはこちら
http://www.youfab.info/2020/hackandrock_170919_report_1.html?lang=ja
第二部では「つくり手からみる、メイカームーブメント」と題して、YouFab並びにCHAの過去受賞者を招いてトークセッションを行いました。まずは過去受賞者3人の活動紹介を受けて、作り手やメイカームーブメントを取り巻く経済系について話を進めました。
(岩岡) 3人の作品を紹介から始めようと思います。最初はCREATIVE HACK AWARD 2016 グランプリ受賞の佐々木遊太さんからです。
(岩岡) 第一部の話を聞いて、佐々木さんが「初めてコンピュータを手にした時、ジミヘンになりたかったんですよね」って言ってましたけど、どうしてこうゆう方向に行ったんですか? (笑)
(佐々木) やってることはあんまりジミヘンと変わってないと思っていて。ジミヘンにとってエレキギターが楽器だったかというと、それはわけわからない生命体だったと思う。コンピュータとの距離感で考えると、大学時代、SFCでコンピュータとネットワークに囲まれて、ガチャガチャした距離感の中でデジタル情報と付き合う、という距離感に関してはジミヘンに近いと思います。
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▲エレファンテックが手がける伝導性銀インクのマーカー。マーカーの中に銀のナノサイズの粒子が入ったインクが入っていて、書くと回路になる。他にもインクジェットプリンターに銀の伝導性インクを入れ、インクジェットプリンターを“HACK”して、回路の印刷を実現している。https://www.elephantech.co.jp/
(田中) YouFabって、1位がおしゃれで、2位がギークな作品が選ばれるっていうよくない傾向があると思うんです(笑)そういう意味では、杉本さんがやっているようなことはどんどん飛び火して、繋がっていくという意味で、Rockだなと思いました。
▲OTON GLASSは、文字を読むことが困難な人のためにデザインされた「スマートグラス」。「ディスレクシア(読字障がい者)」「弱視者」「海外渡航者」など、文字を読むことに不自由なユーザーにカメラで文字を認識し、読み上げてくれる。
(田中) 去年表彰式で自分で言ったことを覚えていて、「作家」というのが今の社会どういうものなの?という話があると思うんです。作家という殻をどう壊すかということ。つまり、「私の作品」と言ってみんな出してくることが多いんだけれども、一方でオープンソースにしたらなんか仲間が集まって来てみんなが集まり出したような動きもある。OTON GLASSは島影さんの作品にも見えるし、集合知的なコレクティブなものにも見える。そういう意味で違うトーンを感じた部分がグランプリにつながったと思う。
(若林) 3人の話を聞いていて、食いぶちの作り方もそれぞれだと思う。スタートアップって、サービス化するときには大手にバイアウトするか、コモンズっぽくしちゃうかという2通りぐらいしか実はないのではないか。そのときに、将来の会社ないし個人としてどこを目指すのか、どうゆうビジョンがあるのかというのは気になります。
(島影) 感覚的には、僕らがジミヘンになれるかをこのプロダクトで試されている意識はあります。いろんな会社と戦略がある中で、どこが最も正しい解を見つけて実践していくかをという部分はビジョンや戦略というよりも、試されているという感覚です。
(若林) 海外でもOTON GLASSのような試みは他にもあるし、技術としてはそれなりに混み合っている領域だと思います。そこでどう抜け出せるかというところにかけてると思うですが、それっていつぐらいに結論が出ると思いますか?
(島影) 今はアイウェアコンピュータが社会実装に至る前のフェーズで、どこかのタイミングで実装されると思っていて、誰がいつやるのかくらいの問題で、これから5年の間に決まると思います。
(若林) 5年だと資本力の勝負にならない?
(島影) 僕はもともとスタートアップをやりたいと思って始めたわけではなくて、クリエイターとして始めました。なので、僕の使命としてはクリエイターから始まったプロジェクトを資本に負けないでデプロイするかというところだと思っています。
(田中) スタートアップと聞くと、スタートしてアップだから、社員が増えてどんどん大きくなっていくのが常なんだけれども、そこを目指さずにスタート“ステイ”で、「6人とかでずっとやっていくのが楽しいです。」みたいな人もいますよね。
(若林) そうゆう話を聞くと、今までの会社が持ってる役割が変わって来ているのかなという印象があります。
(杉本) 僕らは典型的なスタートアップで、僕らからすると佐々木さんや島影さんみたいな人たちをジミヘンにできるのかというようなサービスをやっています。本当は資本力がないとできないという大量生産の時代から、インクジェットプリンターでオンデマンドでできる。20~30万で2~3週間かかっていたプロトタイピングが、1.5万円で3日でできる。作り方が根底から変わるという現場を作っている意識があります。
(若林) 好きなスタートアップってなんだったかなと考えたときに、Shopifyを考えた。Shopifyは個人でもECサイトを作れる仕組みをつくって売っているんだけれど、それって改めて考えるとすごいなと思った。決算や在庫管理の仕組みまでお金を払えばちゃんと用意してくれる。裏側の基盤となる部分が揃って、新しいジミヘンが出てこれるのかなと思って、それってすごく今っぽい話だと思いました。一つのプラットフォームを提供することに近くて、それは開放系のプラットフォームで、独占せずともマネタイズできる。
(佐々木) 前職で働いていた日本科学未来館はMaker Fair Tokyoの会場でもあって、そこでいろんな人がモノを作ってるのは楽しそうなんですが、死の匂いがしないというか(笑)。 DEAD or MAKEじゃないけど、生きることとか死ぬこととか、身の回りをぜんぶひっくるめてこそ、作るということに意味があると思うんです。
(田中) すごくいいコメントだと思う。つまりこうゆうコンテキストがあるから作ろうっていうことじゃないっていうことだよね。
(佐々木) 物語はいいから魂見せろという。
(若林) この前イスラエル行ってきて、VC兼インキュベーターみたいなところをみてきた。 そこは8200部隊っていうイスラエルのNSAみたいなところの出身者ばかり集めているところで、彼らが言っていたのは、「アイデアは求めてない」っていう。つまり、問いは外から与えられるんだけど、お前だったらどう答えを出す? というアウトプット部分に結構お金を投資したりする。端的にいうと面白いこと言えっていうお笑い芸人的なこともあるんだけれども(笑) あるコンテキストでは、問いに対する答えをアウトプットできる人が求められていると思う。
(田中) 3人に共通しているところは、もう賞を取ったのは昔だけど、今日聞いても新しいんだよね。何年か前の作品という感じがしない。つまり、流行とかムーブメントを超越しているということではないでしょうか。
HackとRock。FABとそれによる新しいものづくりの経済系。そしてモノを作る意味という根源的な部分にまで話が及んだハイコンテキストな2時間でした。
今年のROCKとHACKを体現する作品はそれぞれどんな作品が選ばれるのでしょうか。ご期待ください!