現在の環境危機に応えるように、毎日のように新しいバイオベースの素材が発表されています。再生可能な資源から生産されるこれらの材料は、多くの場合、工業的な農業の余剰物に由来するものですが、特別に農業が行われていることもあります。このような資源を生産するために使用される単一栽培的であり集約的、また抽出的な農法は、環境に大きな影響を及ぼしています。生物多様性の損失、土壌の枯渇、水質汚染、また気候条件の変化に伴う脆弱な生態系の生成などにつながっているのです。
Syntropia is a project funded by Re-fream, a project supported by the European Union as part of the STARTS programme, Horizon 2020.
Syntropiaプロジェクトの基盤となっているのは、Sophia GuggenbergerのRa(h)menschuhとEugenia MorpurgoのSyntropic Materialsの2つの個人プロジェクトです。
Ra(h)menschuhは、伝統工芸、デジタルファブリケーション、産業戦略に基づいて、靴の製造における代替工法を調査するものです。
伝統的な靴は、様々な異なる材料で作られた最大40の異なる要素で構成されていて、接着剤とステッチによって不可逆的に組み立てられ、修理や廃棄の可能性を制限しています。そこで、シンプルな構造を開発し、構成要素を4つ(アッパー、フレーム、ライニング、アウトソール)に絞り込みました。また、接着剤を使わずに加工しているため、必要に応じてパーツを分離し、廃棄や修理が可能です。さらに、すべてのパーツを現地で生産するだけでなく、グローバルに生産できるように構想されています。複雑な製造工程が簡素化されているため、構造を変更しただけでなく、敷居の低い工具を使用し、さらにモジュール式のシステムを開発することで、必要な資源をさらに簡素化・最小化しています。
簡素化されたローカライズプロセスは、現在の生産方式と比べすでに持続可能な代替案を提示してはいるものの、使用されているほとんどの材料の環境への影響は、調査と改善の余地がまだたくさんあります。
現在の環境危機を受け、石油を原料とする素材に代わる持続可能な素材の探求がますます盛んになっています。フットウェアデザインの分野でも、他のクリエイティブな分野と同様に、天然素材やバイオ素材を使った選択肢が、産業レベルだけでなく、実験的なデザインスタジオのレベルでも開発されつつあります。数ある解決策の中で、多くの企業、材料エンジニア、デザイナーは、食料生産における土地を奪わないようにするため、農業残渣の使用を検討し始めました。これらの研究は地域のバイオリージョナルエコノミーに強く根ざしており、自然素材の可能性を広げていっています。しかし、これらの研究は、資源の生物多様性を豊かにしているにもかかわらず、廃棄物の利用に対する技術的な解決策に過ぎず、廃棄物を発生させた農業システムに疑問を投げかけてはいません。単品栽培の工業的農業が環境に与える影響に対して、真の代替策を提供していないのです。
Eugeniaは、自身のプロジェクト「Syntropic Materials」で、再生農法などの代替的な農業生態学モデルに注目し、植物と動物をベースにした材料生産のための再生プロセスを設計するため、このモデルを天然素材研究の最新動向と組み合わせることを試みています。
材料分野におけるこの偉大な革新は、ポリカルチャー(※同じ畑に複数種の作物を栽培する農耕法)開発のための新しい可能性を開くことができるかどうか、また逆に、ポリカルチャーを設計する際に取られた選択が、新しい材料開発における新しい方向性を定義することができるかどうかを問うています。
Syntropiaプロジェクトは、私たちが資源を生産する方法と、それを使って作られる製品を再考し、再概念化することを提案しています。現在、サステイナブルなフットウェアのデザインには、リサイクルまたはバイオベース素材の使用という2つのアプローチがあります。どちらも大規模な工業生産に依存しており、バイオ素材は工業的な単一栽培が必要であることをを意味し、リサイクルをするにはプラスチック廃棄物が必要となります。私たちは、これらのシステムの現在の価値を認めながらも、将来的に健全で実行可能な生産の選択肢を生み出すためには、資源と製品の間のつながりを再考し、どちらかが作られる前に、フィールド-素材-製品と関連さあせ合う必要があると信じています。
私たちの出発点は、同じポリカルチャーの畑で成長できるバイオ素材をベースにした靴を開発することです。これにより、私たちが使用している材料が、そのライフサイクルすべての段階において環境に与える影響を管理することができます。すなわち、靴は再生可能な資源のみで作られ、これらの資源は再生可能なポリカルチャーで育てられるので、土壌を豊かにし、水の使用を制限し、生物多様性を育むことができるのです。私たちは、素材管理や靴の生産に関する既存の戦略に挑戦すると同時に、持続可能な資源管理をデザインすることを提案しています。
このポリカルチャーの最初の草案を完成させるために、スペインの農学者Fernando Bautista Expósitoとのコラボを開始しました。
当初から、このプロジェクトを特定の地域に根付かせる必要があることは明らかでした。気候や環境の制約が、種の研究、ひいては素材の研究のための枠組みを作ることになるのです。
Fernando Bautista Expósitoと共に、私たちは2つの主要な側面を考慮しながら共同作業のプロセスを構築しました。フットウェアに使用するために素材が満たすべき技術的要件と、地理的に限定された地域が提供できる特定のリソースです。
トウモロコシのデンプンから作られるポリ乳酸(PLA)をベースにした柔軟なポリマー(柔軟なバイオプラスチック)を靴のアウトソールに使用することを検討している場合、次のような疑問が生じる可能性があります。
技術的な要求事項:
硬度、柔軟性、耐摩耗性などに関する仕様は?
素材の使用にあたり、どのような技術・プロセスを適応できるか?
必要な数量は?
農業的要求事項(私たちの目標は、肥料や農薬、大量の水に頼らないポリカルチャーの畑を作ることであると仮定します):
栽培する種をどのように組み合わせ、どの程度の量を栽培しなければならないか?
これらの要件と、靴の生産に必要な生産量のバランスをどのようにとるか?
靴に必要な一般的な特性を定義した後、市場で一般的に入手可能な樹種と素材の初期リストを作成しました。これにより、研究・実験のための物理的なサンプルの最初のアーカイブを作成することができました。
Fernando Bautista Expòsitoは、最初に作成した植物のリストからさらにプロジェクトの地理的位置を絞り込み、靴の製造において長い伝統を持つ、スペイン南部のアンダルシア地方へと導いてくれました。
彼は、気候的な必要性とイベリア半島の農業景観における存在感という観点から、すでに存在している種を評価し、さらにはアンダルシア地方ですでに生育している、類似した、あるいは補完的な特徴を持つ関連樹種を追加しました。さらに、原材料の生産から理想的な気候条件など、これらの種の成長の可能性や問題点に関連する情報の範囲を広げていったのです。
最初の以来、このリストはさまざまな異なる側面のアーカイブとなり、生産プロセスや材料の使用についてさらに調査することができるようになったのです。
私たちが調べた種のほとんどは、産業革命や緑の革命以前の製造業や農業の世界で重要な役割を担っていました。
実際に実験を行い、素材の品質評価と農学的な考察に常に注力した結果、リストは徐々に洗練されていきました。最終的には、アンダルシア地方でポリカルチャー農業が可能で、かつ靴の原材料として使用できる16種のリストが出来上がりました。
このように、製造上の技術的要件だけでなく、環境上の多種多様なニーズを考慮した研究開発のプロセスは、我々にとってもフェルナンドにとっても非常に新しいものでした。
私たちが開発していたコンセプトとアプローチは、地中海という文脈において持続可能な靴の製造という特定の文脈の中だけでなく、世界的にも通用するものであると確信しています。そのため、ドキュメントを共有するだけでなく、プロセスを共有することは、「最終的な」結果そのものと同じくらい重要なのです。
素材の研究開発については、靴の構成要素をアッパーとライニング、フレームとアウトソールの2つのグループに分けました。
アッパーとライニングについては、さまざまなルースファイバー、紡績糸、生地、そして代替レザーやバナナ繊維の生地など、新しい素材開発を模索しました。
フレームとアウトソールについては、現在ほとんどの靴の生産に使われている合成ポリマーに代わる、柔軟なPLAや天然ゴム、またそれらを生産する植物などのバイオベースの研究に重点を置きました。
靴づくりにおける実現可能性を見出すためには、ポリマーの使用と応用が一つの大きなポイントになりました。
そこで、バイオベースのフレキシブルポリマーとして、主に2つの供給元を特定しました。
トウモロコシのデンプンから作られる柔軟なポリ乳酸(PLA)。
ヘベア・ブラジリエンシス製の天然ゴム
私たちは、フットウェアの製造におけるポリマーの使用について考えることは、絶対に必要なことだと考えています。たとえバイオベースであっても、その生産と廃棄が生態系に与える影響は、自然由来の素材とは比べものにならないからです。そこで、部品の製造に必要なポリマーの量を最小限に抑え、新しい素材特性を見出すことができるよう、材料化合物の可能性を調査したいと考えました。
調査の初期段階で、エンドレスファイバーで補強したフィラメントの製造と使用に関する研究を見つけました。私たちは、共創パートナーであるHaratech社の協力を得て、ヨハネス・ケプラー大学の研究機関であるWoodKplusを外部パートナーとして迎え、一緒に繊維強化フィラメントを開発することにしました。 私たちは、2種類の柔軟なPLAを、1mmの連続した綿糸、0.5mmの連続した麻糸、およびルースファイバーを混ぜたPLAフィラメントで1.75mmのフィラメントにするための試験戦略を一緒に考えました。
ポリマーと組み合わせる素材の選定は、バラエティに富んだ選択肢を実現することに重点を置きました。まず最初に取り組んだのは、使用する糸の寸法を決めることでした。最終的には、織物に使われる1mmの綿糸と0.5mmの麻糸を入手することができましたが、現場で入手できる素材に対応した通常の糸を入手しようとしているときも、この問題は最後まで残りました。
そこで、少なくとも配合フィラメントで結果を出すために、必要な品質で入手できる可能性のあるコルクパウダーを使用することにしました。
バイオベースのフィラメントを使った3Dプリンティングの開発と並行して、天然ゴム複合材料の可能性にも取り組みました。天然ゴム樹液は、主に東南アジアのゴムの木(ヘベア・ブラジリエンシス)から採取される原料です。この研究では、ラテックス生産植物の代替品を探るとともに、ラテックスと天然繊維をブレンドして、天然ゴムの使用量を最小限に抑えた素材複合化の実験も行っています。
靴
ポリカルチャー研究、素材研究、靴の生産研究で得られた知見を組み合わせ、Syntropiaの靴は4つのバリエーションを持つことになりました。
靴は柔軟な枠組みとみなすことができ、各素材は現地で利用可能なインフラに従って、異なるレベルの技術的複雑さをもって生産することができます。アッパーは、工業的製造と同様に手作業で作ることができ、アウトソールはオンデマンドで3Dプリントすることも、標準化されたゴムシートから切り出すことも、金型鋳造で大量に生産することも可能です。このアプローチは、現地で起こりうる生産状況に応じて適切な技術を使用するシステムを提案しています。このような柔軟性は、靴の製造に使用される素材にも見出すことができます。
生物多様性に富んだ農業生態系に由来する素材を使用することは、靴のデザインにおいても同様に、素材の生物多様性の豊かさを実現することに挑戦することになります。季節の移り変わりに合わせて、私たちはひとつの資源だけに頼らないことを目指しています。私たちは、自然のサイクルの予測不可能性を尊重し、各パーツがさまざまな異なる資源を使って製造できるような製品をデザインしています。
使用する素材や生産方式に柔軟性を持たせることを追求した4つのプロトタイプ:
1- 工業生産された麻織物、PLA、ウール繊維を混ぜた天然ラテックスで作られたアウトソールを使った靴
2- 工業的に生産された麻とイラクサの織物、PLA、コチニール染めのサイザル繊維を混ぜた天然ラテックスで作られたアウトソールから作られた靴
3- 手織りのイラクサと麻の糸、麻の繊維とイラクサの糸、PLA、コルク粉を混ぜた天然ラテックスでできたアウトソールから作られた靴
4- サイザル麻と手織りの麻糸、麻糸と麻糸の織物、PLA、サイザル麻を混ぜた天然ラテックスでできたアウトソールからなる靴
Eugenia Morpurgo, Sophia Guggenberger
Italy
Syntropia is a project initiated by Sophia Guggenberger and Eugenia Morpurgo and has been developed in the frame of the European funded project Re-fream.
Project developed in collaboration with Haratech, WoodKPlus and the Fashion & Technology department at the Kunstuniversität Linz, Empa, Fernando Bautista Expósito, Anastasija Mass and Elisabeth Handl.
Sophia Guggenberger is a designer/maker continuously working on developing alternative strategies for the production of footwear. She is researching not only the technical aspects of these specific processes but also the wider implications of employing different production methods; mixing craft, industrial strategies as well as digital fabrication.
Eugenia Morpurgo is an independent designer researching the impact that production processes have on society, with a focus on investigating and prototyping alternative scenarios and products. She works through self initiated projects and commissioned work from cultural institutions, Universities and Fablabs.