– 衣服はどのように女性の胸を支え、それぞれの形や非対称性を受け入れ、下着と衣服の間の溝を埋めることができるのでしょうか
– embraceは、デザインの課程を多様化し、衣服の着用者を衣服デザインチームの利害関係者や専門家として迎え入れる、より大きな研究調査の一部です。 乳がんに罹患した女性、つまり乳房切除後に異なるサイズの乳房、片方だけの乳房、あるいは乳房のない状態で生活する女性のニーズからインスピレーションを得て、従来のブラに代わる思索的なブラが概念化され、試作されました。ブラジャーの代替デザインになるものの開発は、乳がんを患った女性特有の衣服のニーズとユニークな身体形状に対応することで、身体の対称性に基づく標準的な衣服の構造に反対するものとなります。 この衣服デザインへのアプローチは、衣服のモジュール化、マス・カスタマイゼーション、下着と衣服の間の溝を埋めることによって、乳房サポートの一般的な理解と解釈を拡大することを提案するものです。 3Dエンジニアード・ニッティングのような付加製造のプロセスとパラメトリック・デザイン手法、そしてモジュラー・クロージングを組み合わせることで、個人、身体、そして美的ニーズに対応するデザインを可能にします。
乳がんと服のデザイン
乳がんと診断された後、美しく快適なブラジャーを見つけるのが難しいという友人の話を聞いて、私は乳がんと衣服デザインというテーマにたどり着きました。乳房を切除した人のためのブラジャー、プロテーゼ、自己認識の変化、女性らしさの再定義など、彼女の経験を聞きながら、乳がんにかかった他の女性たちがどのように乳房切除後のブラジャー選びを経験しているのかを調査したいと思いました。そして、服飾デザイナーという立場で、そのような女性たちにどのように役立つことができるかを知りたいと思いました。
乳がんは、現代の流行病と言えます。世界保健機関(WHO)によると、女性の8人に1人が生涯で浸潤性乳がんを発症し、平均80%の確率で生存すると言われています。患者数は2030年まで50%増加すると予測されています。
乳がんと診断された女性の多くは、それが全切除であれ部分的であれ、片方であれ両表であれ、何らかの方法で乳房切除術を受けることになります。このような手術を受けた患者の約半数は、乳房を再建することなく、異なるサイズの乳房、片方の乳房、あるいは乳房のない状態で生活を続けることになります。
乳房切除術後のブラジャーは、乳房切除術の傷跡が治った後に女性に提供される下着の一種で、ブラジャーの前ポケットに挿入するジェル状のシリコン製フォームである外付けの人工乳房と組み合わせて、日常的にブラジャーとして着用するものです。
乳がんの診断やその体験は人それぞれであり、ブラジャーのニーズも人それぞれです。これらのニーズは、個人的、身体的、感情的な治癒プロセスによって異なります。身体的なレベルでは、乳房切除後のブラジャーのニーズは、手術の傷跡、皮膚の過敏性、損傷した神経、リンパ浮腫の影響を受けることがあります。感情的なレベルでは、自己認識と、変化しトラウマを受けた身体と(再度)つながることが、独自のブラジャーのニーズを生み出す可能性のある親密なプロセスです。
ブラジャーの多様性
乳房切除後、異なるサイズのバスト、片方のバスト、またはバストがない状態で生活し、外付けの人工乳房を装着しない女性のための代替ブラジャーの選択肢は、現在世界市場にはほとんど存在しません。
従来の乳房切除後のブラジャーは、業界標準や製造技術に沿った左右対称のステレオタイプな体型に対応しています。工業化されたパターンメーキングの方法は、衣類、下着、ブラジャー、乳房切除後のブラジャーにおいても同様で、それらは一般的に、要約され、分類され、標準化された身体データを普遍的な寸法に変換する規範的な測定チャートに基づいています。これらの計算では、標準サイズ表を作成する際の基本基準として、体が対称的であることを仮定していて、パターンの構築技術は、これらの手法に依存しています。乳房切除後に身体が対称的でなくなった女性や、身体の構造が標準から外れている人は、この手法では考慮されないのです。そのため、このような人々にとって、自分のニーズに合った市販の服を見つけることは困難です。
3Dニット、モジュール式ブラジャーの代替品
乳がんに罹患した女性特有のブラジャーのニーズをよりよく理解するために、私は博士課程研究の中で参加型のデザインセッションを開発し、促進しています。参加した女性は、簡略化された衣服のデザイン方法とデザインツールキットを使って、個人のブラジャーのニーズを視覚化し、創造的に表現することができるます。博士課程の研究では、ドイツ、日本、アメリカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチアなど、世界各地の女性たちと一緒に仕事をしました。これらのデザインセッションから得られた知見から、個々のブラジャーのニーズがいかにユニークで特殊であるか、また、現在のブラジャーの構造からいかに逸脱しているかを理解することができました。そこで私は、付加製造を活用したバストサポートのモジュラー・アプローチを開発しました。付加製造は、3Dニッティングのように、衣服のパーツを切縫するのではなく組み立てるため、モジュラー型の衣服を大量にカスタマイズでき、非対称性に関してより汎用性のあるものにできる見込みがあります。
このモジュール式でカスタマイズ可能なコンセプトで私が行っている衣服の多様性へのデザインアプローチは、乳がんを経験した女性が必要とするブラジャーのすべてを取り込んだベース衣服、つまりブラジャー・オルタナティブに依存しています。このモジュール式バストサポートの衣服は、乳房切除後に2つの異なるサイズのバストを持つ女性、片方のバストを持つ女性、あるいはバストがない女性などを含む基本マトリックスに、明確なニーズを組み合わせています。単体でも着用可能で、バストサポートへの理解や解釈を広げ、下着と衣服の間にあるギャップを融合します。しかし、その主な目的は、特定の衣服のニーズやユニークな身体形状に対応し、カスタマイズすることで、着用者のニーズに対応し、異なるバリエーション(ネックライン、アームホール、カップのサイズと形)を抽出することができます。
パラメトリックバストサポート
モジュール式ブラジャー代替案と合わせて、このプロジェクトは敏感な肌への負担を軽減する新しい形のバストサポートを実験しています。従来のブラジャーのバストサポート構造は、通常、衣服が体の周りに固定されるように張力がかかっています。この張力は、肩やバストの下の胴体の皮膚に圧迫感を与え、皮膚の刺激や不快感の原因となることがあり、特に、傷跡が残っている場合や、乳がんの手術でリンパ節を切除し、リンパ浮腫になりやすい場合、この圧迫感が問題となります。このデザイン開発では、カスタマイズされた乳房サポートに向けた新しいアプローチを試みています。柔らかな構造は、特定の身体形状に応じてパラメトリックに構成されています。サポート構造は外部についているため、衣服のニア部は滑らかで柔らかく、乳房切除の傷跡や放射線による火傷の後遺症で皮膚が薄く、敏感で脆い女性にとって、特に重要なことです。
ステークホルダー、専門家としての衣服着用者
モジュラー・コンセプトのカスタマイズ性を追求し、プロトタイプの着心地を試すためには、乳がん患者の女性をプロジェクト参加者、ウェア着用者、ステークホルダーとしてデザイン開発プロセスに招き入れることが不可欠でした。そこで私は、乳がんの診断を受けた後、サイズの異なる乳房とともに生活しているViktoria Prantauerと連絡を取り、この思索的な衣服開発の最初のステージに臨みました。Viktoriaは、AIによって乳がんデータを民主化するHippo AI Foundationの共同創設者であり、患者の最高責任者です。彼女はプロジェクトの参加者となり、2つのカスタムブラの共同デザイナーとなりました。パラメトリックな乳房支持構造を持つモジュラー・ブラ・オルタナティブ・ベース・ガーメントの最初のイテレーションは、ヴィクトリアの身体形状に沿ってカスタマイズされました。私たちの共同デザインプロセスにおいて、ヴィクトリアは、彼女の衣服着用経験のエキスパートとして「embrace」チームと協力し、作品の完成度を高めていきました。またViktoriaは、彼女の好みや衣服のニーズに合わせて、ブラジャーの代替品を2種類カスタマイズし、共同デザインしました。
ビジュアライゼーションとコミュニケーション・ツールとしてのデジタル・ガーメント・デザイン
ブラジャーの多様性を理解し、対話を深めるために、ブラジャーのベースとなる衣服のアナログデザイン開発に加えて、ベースとなる衣服のデジタル版もアニメーション化されました。3Dニットブラのすべての可能なモジュールバリエーションを視覚化した、電子的にカスタマイズされたバリエーションは、アナログテキスタイルの特性を正確に反映し、デジタルスケールでプロトタイプ化されています。その一部を動画でご覧ください。
bra alternative from Silke Hofmann on Vimeo.
Silke Hofmann
Germany / UK
Silke Hofmann is a clothing designer and design researcher, who investigates the aesthetic and ergonomic bra needs of females affected by breast cancer. Her doctoral research at the Royal College of Art is funded by the London Doctoral Design Centre through the Arts and Humanities Research Council. She has been a JASSO-funded visiting researcher in the KYOTO Design Lab at the Kyoto Institute of Technology and has received funding awards from the European Social Fund through DesignFarm Berlin and the Horizon 2020 ReFREAM grant.
In her speculative design project ‘embrace’, she uses collaborative processes to address unfulfilled clothing needs together with affected females and a team of designers. ‘embrace’ opposes normative garment construction based on body symmetry and responds to unique body topologies and specific needs of females living with different-sized breasts, one breast, or flat after a mastectomy. This design approach expands the understanding and interpretation of breast support by introducing modularity and mass-customisability to the clothing design process. ‘embrace’ works with additive manufacturing technologies, 3D engineered knitting, 3D scanning and self-directed parametric algorithms, making designing for individual, physical and aesthetic clothing needs possible.