HAPTIC DESIGN AWARD
The Third Thumb
Category : GENERAL
By Dani Clode (イギリス)
The Third Thumb Project from Dani Clode on Vimeo.
The Third Thumbは、3Dプリンターでできた「もう一本の親指」です。本プロジェクトは、人体と人工装具の関係を、新たな側面から探るものです。
人間にとって親指は特別なものです。3Dプリントで作られたThe Third Thumbは、親指のユニークな動きを、2つのモーターで引っ張ることで再現しています。ユーザーは、足のつま先に取り付けたコントローラーを使い、Bluetooth接続で「もう一本の親指」をコントロールします。足でコントロールするという考えは、車の運転、ミシンの操作、ピアノの演奏などの、手と足が連携するプロダクトからヒントを得ました。
The Third Thumbは「能力」の定義について議論を引き起こします。「prosthetic」(人工装具)の語源である「prosthesis」という言葉は「加える・乗せる」という意味を持ちます。人工装具とは「直す・交換する」のではなく、「延長する」ことなのです。この語源からヒントを得て、人体の増強について探求し、人工装具を身体の延長として再定義したいと考えました。
人工装具を人体の延長ととらえ、社会での人工装具の受け止められ方を変えていくために本プロジェクトを行いました。 The Third Thumbは、道具でもあり、体験でもあり、自己表現の形です。人工装具を身体の延長として見直すと、ハンディキャップとは「治す」ものから、身体能力を「伸ばす」ものとなるでしょう。
本作では、インターロック機構を持たない、一体で成型可能な蝶番のデザインを作ることを目指しました。デザインと素材の形が重要であり、さまざまな素材を使い、約10種類のプロトタイプを試した後、ゴムのように柔軟な伸縮性を持つNinjaFlexという素材で試作を始めました。 親指のデザイン考える一方、親指を手につけるためのパーツの試作も行いました。手のどの部分が最も動き、どの部分が動きにくいのかを調べ、11種類のデザインを作り、手の形に合うデザインを見つけました。一番うまくいった親指のプロトタイプとパーツを組み合わせ、電子回路を手首部分につけました。親指をどうやってコントロールするかについては、体の伸縮の調査を行い、最終的に足の親指に落ち着きました。
このプロジェクトでは、人工装具を操作することとともに、装具をつけた時のユーザーの感情変化を観察することも目指しました。The Third Thumbの仕組みはシンプルなので、誰もが1分ほどで物を持てるようになりました。ただし、自分の意志のとおりに操作できるようになるには、少し時間がかかりました。柔軟に動く親指と、頑丈な手のパーツのおかげで、物を持ったときに、物の重みを手の一部に感じることができます。 The Third Thumbをしばらく 着用している私は、今や、親指を曲げることを考えると、自然とつま先が下に動くようになりました。装置を外すと、何かが足りない気分になり、まるで幻肢のような感覚になります。
3D printer, Laser cutter 3D Modeling and Design Software, 2D Design and 2D CAD Software
JUDGES, COMMENTS
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太刀川 英輔
NOSIGNER 代表 / 慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授義手のように手を代替するのではなく、指を増やすことで手を「進化」させるというコンセプトが大変素晴らしいです。
触覚デザインが発展するということは、触覚器官そのものを進化させることの裏返しです。その意味で、The Third Thumbほどダイレクトに器官の進化を扱った作品は他にありませんでした。脳波コントロールなどの技術が進化すると、本物の指のように動く日がいつか来ることでしょう。それも、この数年のうちに。 -
水口 哲也
Enhance 創業者 & CEO / 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 特任教授あらゆる点でHAPTIC DESIGN賞にふさわしい作品だと思います。実際に身体に装着できて、操作することができるワークモデルであること、そして周囲で見守る人々に対して、触覚性を刺激する力を持っている点などが、他の作品より優れていると評価したポイントです。おめでとうございます!
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廣川 玉枝
SOMA DESIGN、クリエイティブディレクター/デザイナー拡張された身体によって、手で触ること自体の機能を伸ばせることと、その他の連動するさまざまな感覚が増幅される可能性に期待があります。実際に使ってみたいと思う作品です。